艶茶話武勇伝 付け足り (お侍 習作36)

       *お母様と一緒…?
 

母上の昔の武勇伝を巡っての、
相変わらずな金髪紅衣の双刀使いさんによる、
微笑ましい一幕があった、その数日後の昼下がり。

 “…おや。”

川が下ってゆく勾配から離れるかのように、
せせらぎに沿った道はその出口付近が少しほど小高い土手になっている村道を、
作業の報告にと戻りかかっていたヘイハチ殿。
視野の下半分を埋める、まだ青々とした草地の川原が広がるその突き当たり、
詰め所になってる古農家の裏手にて。
妙齢の娘さんたちに取り囲まれて、
少々困り顔になっている槍使い殿の姿を捕らまえた。
綱を張っての干し場としている裏庭にて、
朝方に干し出した皆の洗濯物を取り込んでいたところ、
お手伝いをと申し出てくれた方々が現れたらしく。
娘さんたちが詰め所や作業場へ立ち寄ることは、
原則“厳禁”とされていた筈だったが、
数で押せば振り切りきれまいと構えた豪傑さんたちが、
こぞって押しかけたというところだろうか。
お侍は怖いと思われてはせっかくの団結に水を差すので、
あんまりキツイ言いようは出来ず。
さりとて、黄色い嬌声に囲まれての、構い立てをしている場合でもなく。
これが も少し大人か慎ましい女性が相手なら、
粋なことの1つでも囁いてポッとさせ、追い返すのもお手の物だろに。
相手はお元気で腰の強そな女性の団体。
あれはさしものシチさんでも手古摺りそうですねぇと、
立ち止まっての頬を掻き掻き、その口元へと苦笑を浮かべ。
どうするものかとハラハラしつつも眺めていれば。

 ――― 轟っ、と。

前兆もなくの不意な突風が吹きつけて。
河原の草がばさばさと大きな音を立てて乱れ舞う。
その勢いに煽られてのこと、
髪やら衣紋の裾やらを撒き上げられた娘さんたちが、
きゃあっと口々に悲鳴を上げたので。

 「あなたたち、そこで何をしていますか。」

年若い女衆の大胆さを警戒し、防壁の役目を担ってる、
水分まりの巫女様が聞きつけての駆けつけて、
それは手際よくも仕事場へ戻れと追い払って下さった。
そんな一連の顛末にホッと胸を撫で下ろしてから、
ヘイハチ殿はおもむろに、

 「…さすがですねぇ、キュウゾウ殿。」

自分が立ってた土手の すぐの真下の河原へと声を掛けている。
そこにはいつの間にやら、金髪痩躯の若いお侍が すっくと立っており。
背中に負うた長い赤鞘へ、得物の双刀をぱちりと収めているところ。
それへと声をかけたヘイハチへ、
「…。」
赤い眸による一瞥をちらりと寄越した彼こそが、
今さっき吹き荒れた旋風の生みの親であり、
その双刀を振るっての遠当てで風を起こし、
シチロージへこしょこしょとまとわりついていた女性陣を
一気に追い払おうとした彼であったらしくて。

 “まさか、吹き飛ばそうとしてたとか?”

さ、さあ、それはどうでしょうかねぇ。
(う〜ん)
「シチさんが女性にもてるのは、やはり面白くないですか?」
からかうつもりはなく、ただ。
鋭い眼光で睨んで追い払うというよな力技を使わず、
遠回しなやりようを選んだところが、
シチロージにも女性たちへもなかなか気を遣っていた彼であり。
だからこそ訊いてみたところ、
「…。(否)」
ふりふりとかぶりを振るあたり、
先日の混乱からは何とか落ち着きはしたらしい。
ただ、

  「シチは、姐御肌だから。」
  「………。」

だから娘御に慕われるのだと、うんうんと感慨深げに頷く双刀使いさんへ、

 “混乱は落ち着いたけれど、
  誤解というか困った把握というかは変わってないみたいですねぇ。”

つか、そういう方向で落ち着いたということか。
一体 何から…何処から始まった、理解なやら誤解なやら。
さっきの風の余燼で揺れている、可憐な小菊の真似ではないが。
これは根が深いことですねと、ひょこりと小首を傾げつつ。
とりあえず苦笑を浮かべるしかない工兵さんだったそうでございます。





  〜Fine〜 07.3.20.

  *何をどう、フォローしたかった私なんでしょうか。
  (いや、訊かれても…・笑)

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